・介護施設の外国人雇用で監査に引っかかる「宿舎費・昼食代」天引きの罠|労基法24条協定と実地指導リスク

「外国人介護スタッフ用に借り上げたアパートの家賃を給与から引いている」

「施設内で提供している職員用の昼食代(給食費)を給与天引きで精算している」

多くの介護施設・事業所で日常的に行われている処理ですが、特定技能や育成就労(旧・技能実習)などの外国人材を受け入れている事業所において、この「給与天引き」は労働基準監督署の臨検や自治体の運営指導(実地指導)、さらには外国人育成就労機構の監査で最も重い指摘を受けやすいポイントです。

施設側として「実費を精算しているだけ」「業務の効率化」という認識であっても、法的な手続きや基準を満たしていなければ、労働基準法第24条(全額払いの原則)違反や出入国管理法令違反と判断され、是正勧告や受入れ停止、最悪の場合は優良受入れ機関認定の剥奪へと発展します。

本記事では、介護現場で頻発する天引きトラブルの典型例と、各機関の監査を堂々とクリアするための必須実務を解説します。

1. 原則:「給与からの控除」は法律上原則禁止されている

労働基準法第24条第1項では、賃金について「全額払いの原則」が定められています。

所得税・住民税や社会保険料など、法律で明確に天引きが定められている項目以外は、たとえ1円であっても事業所が勝手に給与から差し引くことは原則として違法です。

「入職時の面談で宿舎費を引くと伝えていた」「本人が施設の昼食を食べたいと口頭で希望した」といった口頭のやり取りがあっても、書面による適法な手続きがなければ労働基準法上は一切通用しません。

※なお、業務として義務付けられている「検食」の費用を職員の給与から天引きすることは、業務経費の不当な労働者転嫁(公租公課・経費負担の強要)にあたり、論外の違法行為となります。天引きの対象となり得るのは、あくまで職員が私的に飲食する「職員給食代」に限られます。

2. 介護現場で監査に突っ込まれる「3大違法天引きパターン」

① 労使協定(24協定)をそもそも締結・保管していない

法律で定められた項目以外を給与から控除する場合、事業所と労働者の過半数代表者との間で「賃金控除に関する労使協定(通称:24協定)」を書面で締結していなければなりません。

「36協定は毎年出しているが、24協定は一度も結んだことがない」「昔結んだきり書類が見当たらない」という事業所は非常に多く、それだけで形式的な法令違反として是正対象となります。

② 過半数代表者の選出が無効(管理職がサインしている)

24協定書を交わしていても、署名している「労働者代表」が無効とされるケースが後を絶ちません。

  • 事務長や施設長が勝手に指名した介護主任、生活相談員、看護師長(管理監督者)がサインしている
  • 職員会議などで形式的に決めただけで、パート・非常勤・外国人スタッフを含めた投票や挙手等の民主的な選出プロセスを経ていない

過半数代表者の選出プロセスが無効であれば、協定そのものが法的に無効となり、過去に遡って「全額払いの原則に違反した不法な賃金未払い」と判定されます。

③ 宿舎費(社宅費)・水道光熱費の「過大天引き(ピンハネ)」

外国人材の受入れ監査で最も厳しく追及されるのが、控除額の客観的な妥当性です。

  • 賃貸物件の又貸し差益: 家賃月5万円のアパートに2名住まわせ、それぞれから月3万5,000円(計7万円)を天引きしている
  • 光熱費の精算不備: 水道光熱費として一律月1万5,000円を定額天引きしているが、実際の請求金額との差額精算を行っていない
  • 法人所有物件の根拠不足: 法人所有の寮や空き居室において、減価償却費・維持管理費等の適正な計算根拠がないまま相場以上の金額を控除している

出入国在留管理庁および育成就労・特定技能の運用基準において、宿舎費や光熱費の控除は「実費相当額が上限」と厳格に定められています。近隣相場や実際の負担額を上回る控除は「不当な手取り賃金の搾取」とみなされ、人数枠の優遇剥奪や新規受入れの停止処分につながります。

3. 宿舎費・昼食代を「適法」に天引きするための3つの実務手順

労基署、自治体(実地指導)、外国人受入れ機関(入管・機構)すべての監査基準を同時に満たすための実務手順です。

手順1:適正な手続きで過半数代表者を選出する

常勤職員だけでなく、非常勤・パート・外国人スタッフも含めた事業所の全労働者を母数とし、信任投票や挙手などの民主的な方法で代表者を選出します。労働基準法上の管理監督者(役職者)は代表者になれません。

手順2:「賃金控除協定書(24協定)」を締結・備え付ける【労基法要件】

天引きする具体的な項目(宿舎費、水道光熱費、職員給食代など)を漏れなく明記した協定書を作成・締結します。

※24協定は36協定と異なり労基署への届出義務はありませんが、施設内での原本保管および職員への周知(閲覧可能な状態にすること)が必須要件です。

手順3:外国人本人との「控除同意書(多言語対応)」を締結する【入管・機構要件】

労働基準法上は24協定があれば控除権能が生じますが、出入国在留管理庁や外国人育成就労機構の監査をクリアするためには「本人の書面による明確な同意」が別途必須となります。

控除する名目、金額、およびその算出根拠(賃貸借契約書の家賃額、所有物件の按分計算書、給食1食あたりの実費単価など)を明記した書面を作成し、本人が理解できる母国語(または平易な日本語)で十分に説明した上で、本人署名を取り交わして保管します。

まとめ:グレーな天引き慣行は、事業所の存続リスクになる

「以前からこのやり方だった」「他法人も同じように引いている」という曖昧な運用のまま放置していると、定期的な自治体の運営指導や受入れ監査の場で一気に表面化します。

一度「法令違反」の指摘を受けると、介護報酬の処遇改善加算の算定要件への悪影響や、外国人材の受入れ資格停止・優良認定の取消など、施設運営の継続そのものを揺るがす深刻な事態を招きます。

当事務所では、全国の介護施設・事業所様に向けて、「賃金控除協定書(24協定)の適法な作成」や「宿舎費・給食代の実費算定スクリーニング」、「入管・機構基準に対応した多言語控除同意書の整備」を完全オンラインにて支援しております。

「自社の宿舎費設定が監査基準を満たしているか診断したい」「運営指導や受入れ監査を前に天引きルールを総点検しておきたい」という施設長・事務長様は、ぜひお気軽にご相談ください。

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