・「1ヶ月母国へ帰国したい」と言われたら?外国人介護職員の年次有給休暇と一時帰国をめぐる実務トラブル予防法
「外国人スタッフから『来月、冠婚葬祭と家族の面会で1ヶ月間母国へ帰りたい』と突然言われた」
「人手不足の現場で長期間抜けられるとシフトが崩壊するが、有給休暇だから拒否できないのか?」
介護現場で外国人材(育成就労・技能実習・特定技能)の受け入れが進むにつれ、多くの施設長・介護主任が直面するのが「一時帰国に伴う長期休暇の申請」です。
日本では数日〜1週間程度の有給取得が一般的ですが、東南アジア諸国などでは「年次有給休暇を一気に消化して1ヶ月近く帰国する」という文化が根付いている国も少なくありません。
しかし、施設側が「シフトが回らないからダメだ」と感情的に拒否すれば労働基準法第39条違反に問われ、逆に無条件で認めてしまえば日本人スタッフの不満が爆発して現場が崩壊します。
本記事では、外国人スタッフの長期一時帰国に関する法的なルールと、現場の混乱を防ぎ円滑に送り出すための実務対応策を解説します。
1. 法律上の大原則:「有給休暇の取得理由と時期」は本人の自由
まず押さえておくべき法的ルールは、労働基準法第39条第5項で定められた「年次有給休暇の請求権」です。
① 理由を問わず、いつでも取得できるのが原則
有給休暇は、労働者に与えられた法的な権利です。「冠婚葬祭だから良い」「観光だからダメ」といった理由による制限は認められず、何日連続で取得するかどうかも原則として本人の自由です。
② 会社にあるのは「時季変更権」だけ
事業主には「有給を取らせない権利」はありません。唯一認められているのは、事業の正常な運営が妨げられる場合に、休暇の時期を別の日にずらしてもらう「時季変更権(じきへんこうけん)」のみです。
③ 長期連続休暇における「時季変更権」の法的判断
単に「慢性的な人手不足だから」「他の職員のシフトが忙しくなるから」という日常的な理由だけでは、時季変更権の正当性は認められません。
ただし、1ヶ月に及ぶような長期連続休暇については、最高裁判所の判例(弘前電報電話局事件など)においても「事業の正常な運営に支障を来す蓋然性が高いため、使用者の時季変更権の行使が通常よりも広く認められやすい」と解されています。
直前の申請で代替シフトの手当てが客観的に不可能な場合は、時期の変更(閑散期への延期など)を求める正当な理由になり得ます。とはいえ、これも「休暇そのものを永久に拒絶する」ことまでは認められず、あくまで「別の時期への変更交渉」が基本となります。
2. 介護現場で頻発する「一時帰国トラブル」の典型例
法的な建前だけで運用しようとすると、現場では以下の3大トラブルが噴出します。
① 突然の申請による「シフトの急激な破綻」
出発の2週間前など直前になってから「航空券を買ったので来月から1ヶ月休みます」と申請され、夜勤シフトの組み直しが間に合わず、他の職員に過度な連勤や残業が集中するケースです。
② 日本人職員との「不公平感・モラルの低下」
「自分たちは3連休すら遠慮して取れないのに、なぜ外国人だけ1ヶ月も休めるのか」という不満が日本人スタッフの間に蔓延し、人間関係の悪化や日本人職員の離職につながります。
③ 期日に戻ってこない「音信不通・延長トラブル」
「飛行機が欠航した」「家族の病気が長引いた」などの理由で、予定期日を過ぎても日本に戻らず、最悪の場合はそのまま連絡が途絶えて行方不明(不法滞在・不法就労)になるケースです。
3. シフト崩壊を防ぎ円滑に運用するための「4つの実務防衛策」
一時帰国をめぐる摩擦をなくすためには、感情論ではなく「事前の就業規則整備」と「手続きのルール化」が唯一の解決策です。
対策1:就業規則に「長期休暇の事前申請ルール」と「有休不足時の扱い」を明記する
- 事前申請期限の明文化「〇日以上の連続休暇を取得する場合は、原則として〇ヶ月前までに申請書を提出すること」という事前申請ルールを就業規則(または外国人向け服務規律)に明文化します。シフト調整に必要な期間を制度として確保することで、突発的な航空券購入による強行帰国を防ぎます。
- 有給休暇の日数が足りない場合のルール1ヶ月(所定労働日約20〜22日)休む場合、入社1〜2年目のスタッフは保有有給日数だけでは日数が不足します。不足分を単なる「無断欠勤」とせず、「一時帰国を目的とした無給の特別休暇制度(事前承認制)」を就業規則に定めておくことで、労使双方の認識のズレを防ぎます。
対策2:「年次有給休暇の計画的付与制度(個人別付与方式)」の活用
労働基準法第39条第6項に基づき、有給休暇のうち5日を超える分について、あらかじめ労使協定で「時期を決めて計画的に付与する」仕組みを導入します。
介護施設の一時帰国対策としては、施設全体で一斉に休むのではなく、「個人別付与方式」が適しています。年度の初め(または契約更新時)に一時帰国の希望時期をヒアリングし、労使協定に基づき業務の閑散期・シフト調整が可能な時期へあらかじめ計画的に組み込むことで、現場の急な負担増を回避できます。
対策3:一時帰国に関する「合意書(誓約書)」の締結
出国前に、以下の内容を記載した書面を外国人スタッフと交わします。
- 休暇の開始日および最終日(職場復帰予定日)
- 帰国中の滞在先および緊急連絡先(現地の電話番号・SNSアカウント等)
- 復帰予定日までに正当な理由なく出勤しなかった場合の懲戒規定や雇用契約上の取り扱い
- 航空券の遅延や病気など、やむを得ない事由が発生した際の連絡手順
母国語を併記した誓約書を取り交わすことで、無断延長や失踪に対する強い抑止力となります。
対策4:在留資格の有効期限確認と「みなし再入国許可」の手続き指導
- 在留期限のチェック一時帰国の期間中に在留期限(在留カードの有効期限)が切れないか、出国前に必ず確認します。期限が近い場合は、出国前に「在留期間更新許可申請」を行っておく必要があります。
- みなし再入国許可の指導日本を出国する際、空港の入国審査官に対して「みなし再入国許可による出国」の意思表示(再入国出国記録用EDカードの「一時的な出国であり、再入国する予定」にチェック)を怠ると、取得していた在留資格(育成就労・特定技能など)が消滅してしまいます。出国前の手続き指導を徹底しましょう。
まとめ:文化の違いを認めつつ、「現場のルール」で守る
外国人介護スタッフにとって、数千キロ離れた母国の家族や親族と過ごす時間は、日本で働き続けるための大切な活力です。無理に帰国を制限すれば、モチベーション低下や他社への転籍(引き抜き)を招く原因になります。
大切なのは、「休ませないこと」ではなく、「現場が困らないように数ヶ月前から計画を立てさせ、ルール通りに気持ちよく送り出して期日通りに戻ってきてもらう仕組み」を作ることです。
当事務所では、全国の介護施設・事業所様に向けて、「長期一時帰国に対応した外国人特化型就業規則の改定」や「一時帰国合意書(誓約書)・申請フローの設計」を完全オンラインにて支援しております。
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